日印産連「GP認定」、製版事業者がシール印刷部門で初の取得
エコもSDGsも「やって当たり前の時代」
(一社)日本印刷産業連合会(藤森康彰会長)が主催する「グリーンプリンティング(GP)工場認定制度」のシール印刷部門で3月、(株)フナミズ刃型製版(埼玉県朝霞市栄町、☎048・465・2140)朝霞工場が認定を取得した。同部門でラベル印刷会社以外、製版事業者がGP認定工場となったのは2008年に同部門の認定を開始して以来初となる。製版事業者が同認定の取得に挑んだ真意や背景について、木原一裕社長と製造部の荒井俊介部長に話を聞いた。(上田)
①貴社エコ活動の沿革
荒井 エコを意識した設備ではありませんが、CTPイメージャーを設備したのはかなり初期の段階でした。当社では現在、会社全体でSDGsに基づく経営や事業活動を実践しており、この中で掲げる「フィルムレスの製版をしよう」という達成目標に昔から符合していたとも言えます。
木原 そのCTPのずっと前の話になりますが、アナログ製版からも早期にDTPへ移行しています。
あとは当社の「エコマグ」でしょうか。両面テープを用いずネオジム磁石の強力な磁力でゼンマイ刃のベース板をチェス盤に固定する当社独自のソリューションは、抜き加工工程での両面テープの使用をなくすことに貢献しています。
荒井 多少強引なエコ活動への解釈もありますが、Macをいち早く導入してDTPに着手したことやCTP導入が、今回シール印刷部門で製版事業者が初めて環境配慮のGP認定を取得するに至った一連に繋がっていると思います。
②取得の背景や経緯は
荒井 昨春、各部署から専任者を選びSDGs推進のためのチームを発足しました。また同時期、社長が任意団体ヴィープスのチェアマンに就任。活動計画の中で、日印産連のGP認定制度の取得を企図した集中講座を企画していました。
木原 実際に受講するまで同制度は印刷会社が取得するものであり、われわれには無縁との認識でした。審査項目に製版工程があたので、質疑応答で「製版屋でもGPは取れますか」と伺うと、取得可能とのこと。会員でGP認定取得を目指しましょうと企画した勉強会で、製版事業者でも取得できると分かった以上、チェアマンが率先して行動しないと示しがつかないと考え、そこから動き出したというのが経緯です。
③どんな運用効果をイメージしていたのか
荒井 ただ当社が取得したからといって、GPマークを載せる自社製品やサービスを持つ訳でもありません。すでに認定を取得しているラベル印刷会社の方に聞くと、顧客のラベルに対して実際同マークを載せる機会がどれくらいあるかといえば「ほぼない」そう。印刷会社がそれなのに製版事業者だと・・・と、運用効果を想像できずにいました。
他方でその方は、社内のマネジメント目的や環境配慮基準に則った製造管理用途として利活用しているようす。対外的にはあまり意味がなくても、内部向けにそうした実効性が見込めるのであれば、取得する意義はあると思い直しました。
こういった時代ですし、地球環境の保全や循環型社会の形成に寄与する、環境に配慮したものづくり企業であるという業界団体の公的認定を受けるということは、対外的にまったく意味を成さないという訳でもないでしょう。
木原 前述の通り、現在SDGs経営にも力を入れているところですから、GPもその一環として調整しようという意向でした。運用効果でいえばほかにも、取得の助言というサービスメニューが増えたことでしょうか。今後GP認定の取得を目指したいラベル忍殺会社さまがいらっしゃいましたら、経験則を基に多少なりフォローはできると思います。刃型や製版と単に当社の製品やサービスをご購入いただく以外に、新たな形でお手伝いができればうれしく思います。
やって当たり前の時代へ
④項目の中での苦労など
荒井 例えば「製版(プリプレス)」の部分で『デジタル原稿の入稿を推奨し、省資源及び廃棄物の発生抑制を行っている』との調査項目では、入稿のデジタル化率は80%以上が加点基準となります。実際はほぼ100%デジタル入稿ですが、それを証明する集計は日ごろつけていません。
結論から言うと、間違いなく点が取れた項目ですが、エビデンス資料が大変だったので0点で捨てました。ほかの調査項目できちんと数字が取れており、ここが0点でも申請に必要な合計ポイントに影響がなかったためです。
『校正のデジタル化を推進し、省エネ・省資源及び廃棄物の発生抑制を行っている』の調査項目では、「デジタル化(プリンタ等の使用)にとる校正が80%以上」が加点条件。当社ではプリンタで「JapanColor認証制度」に基づく色見本を出力していますので、それが校正の代用と認められます。また『工程のデジタル化(DTP化)を推進し、省資源及び廃棄物の発生抑制を行っている』の項目では、DTP化率80%以上が加点条件。当該当項目については、当社のワークフロー図の提出、Macとイラストレーターソフトの所有本数や所有設備の細目を当社ホームページへ掲載し、提出すればOKと簡易なものでした。
総じて言えるのは、工程のデジタル化が進む近年、そこまで特別なことをしていなくても、申請に必要な点数を積み重ねていくことは決して難しくない、ということでしょうか。
⑤副次的効果など
荒井 緊急事態時の避難場所と避難経路を貼り出すなどBCPの項目もありました。当社の場合は製版が復旧の最優先商品にあたり、そのための初動対応の人選や、各部署のリーダーは安否確認をした後に資材調達先に連絡する、といったフローを整理しました。一連を通じてあらためて向き合った内容をSDGsチームで引き継ぎ、より議論を深めてきちんと体系立てていきたいと思います。
木原 BCPについては何年か前にも策定していましたが、その後途切れていました。BCPは常に最新の状態に更新しておかなければいけませんから、今期SDGsチームでアップデートを図っていきます。
最後に総括として
荒井 当社はほかにも健康経営に取り組み「健康企業宣言」もしています。今回のGP認定に代表される環境配慮施策やSDGs経営も企業として「やっていて当たり前」の時代になりつつある。これらを社会に浸透させるためには、日本に多数ある私たちのような中小企業の取り組みが重要になると感じます。
かく言う当社も取り組みはまだまだ道半ば、GPの運用もこれからです。やるからには実効性を求め、ただバッチを付けているだけの”SDGsウォッシュ”のような真似はしたくないもの。まずは足元から、自分の影響を及ぼす範囲のところに少しずつ浸透させていきたいと思います。
木原 自社の利益だけ優先し、環境配慮を疎かにする企業はこの先生き残れないでしょう。顧客や求職者、社会からも相手にされません。いずれ向き合うのだから早く対応した方がよい。取りあえずやってから考え、必要な部分を改善していけばよいと考えます。
今回のGPをはじめSDGsにしてもエコにしても、自分だけ知り、分かっていても仕方のないもの。まずは自社従業員が少しでも内容を理解し意識するようにしなければ。そしてその先に、当社の製品やサービスを通じて環境配慮の精神や実効性を業界に還元しエコに貢献していけたらうれしいですね。