ぶぎんレポート 2022年12月号

彩の国企業探訪 株式会社フナミズ刃型製版

株式会社フナミズ刃型製版は、シール・ラベル印刷の際に使用される、シールを抜く刃型(ゼンマイ刃・フレキシブルダイ)や印刷用の版(樹脂版・亜鉛版)、版下(デザイン)などを製作・販売している。
ひと口にシール・ラベルといっても、多種多様な形や素材があり、貼付する場所や印刷ロットによって製作方法もさまざま。
同社は多様なニーズに応える職人のスキルやクオリティーの高さを武器に、得意先である印刷会社からこれまで に多くの支持を受けている。

ワンストップ対応を武器に事業拡大

スーパーやコンビニに行けば、店頭では「新商品」「10% OFF」などの POPシールのほか、調味料の瓶には材料やバーコードを表示するラベル、日本酒やワインの瓶にはブランド名やロゴマークがデザインされたラベルなどを多く目にする。
また、家電製品や日用品には、取扱いの注意点やお手入れ方法などを記載したシールが、宅配便の段ボールには「こわれもの注意」「天地無用」など配送時の配慮を喚起するシールが必ず貼付されている。

フナミズ刃型製版は、こうしたシール・ラベル印刷に欠かせないゼンマイ刃というシール裁断用の刃型の製作所からスタートした。
現代表・木原一裕氏の義父である舩水信徳氏が、1980年に東京・練馬で舩水刃型製作所という社名で立ち上げている。
ゼンマイ刃という名称は、長い刃が時計のゼンマイに似ていることに由来する。
93年には製版にまで事業を拡大したことで、刃型の製作だけでなく、シール印刷の製版も受けることができるようになり、95年には社名を現在の株式会社フナミズ刃型製版とした。

一般にシール業界では、刃型メーカーは刃型だけ、製版会社は製版だけと、専門分野に特化した会社が多い。
刃型と版をワンストップで手掛けることができるフナミズ刃型製版は、得意先である印刷会社にとって、注文が一度にできて使い勝手が良く、それぞれ別々の会社にオーダーすると生じやすい刃型と版のズレを防ぐことにもつながることから、こうした強みを活かして受注を伸ばしてきた。

木原社長は、93年にフナミズ刃型製版に入社する前までは、コンピュータ関連の専門学校で学び、卒業後はフリーでシステムエンジニアとして仕事をしていた。
刃型や製版の知識や技術があったわけではなく、入社後に現場でイチから学び、スキルを身に付けていったという。
2001年には、ゼンマイ刃とは違うタイプのフレキシブルダイという刃型の製造を開始し、2003年には木原氏が社長に就任することになった。

時代の流れとともに、品質やデザインへの要求が高まっていき、凝ったデザインのクオリティーを求められるシールが増加。
スーパーのように多くの商品が陳列される棚で、商品を目立たせるためには、ポップでインパクトのあるデザインが求められ、注意喚起を促すシールでは、より人目を引くことが重要になる。
そのため 2007年には、細かな文字やグラデーション、写真などがより綺麗に印刷できる樹脂凸版用CTPシステムを導入し、印刷品質を一気に引き上げた。
CTPとは、Computer To Plate(コンピュータ・トゥ・プレート) の略で、デジタルデータからフィルムをつくらずダイレクトに版を作成する方法のことで、現在、フナミズ刃型製版は、顧客ごとに専任のDTPオペレーターを配置し、品質向上に力を入れている。

これまでの常識をくつがえす「エコマグ」を開発

2012年には、業容拡大にともない、現在の埼玉県朝霞市に移転するとともに、新たにゼンマイ刃を磁石で固定するシステム「エコマグ」を開発。
特許を取得し、商標も登録し、現在の看板商品となっている。
従来のゼンマイ刃は、印刷機に両面 テープで固定して使用していたため、固定後の微調整が難しく、使用後には刃型を鉄ベラで剥がす作業を要していた。
これらを改善すべく、エコマグの磁石部分には非常に強力な磁力をもつネオジム磁石を採用し、磁石は簡単に印刷機から取り外せるよう設計されている。
両面テープが不要となるこの技術は、これまで刃型の交換に要していた時間と手間を短縮するとともに、テープ厚がもたらす抜きムラによるロス発生の要因を排除したことで、従来の工程と比べて資材削減につながり、作業効率の飛躍的なアップにつながる大きな変革となった。

開発の経緯について木原社長は「これまで多くのお客様から、ゼンマイ刃の取り扱いに困っているという主旨の声を聞いていた。両面テープを必要としないエコマグは一度購入すれば半永久的に使用でき、位置の微調整や使用後の取り外しも簡単かつ安全にできます」と語る。

ユーザーの声をもとに、続々と新製品を提供

2014年には、刃型の耐久性を向上させた「DLC(Diamond-LikeCarbon)コーティング刃」の提供を 開始。刃型表面に薄い皮膜を形成し、切れ味を低 下させることなく硬度を高め、刃持ちが悪く困っていたユーザーの声に応えた。
さらに 2016 年には、エコマグをさらに進化させた新製品を開発。エコ マグは同社で制作した刃型にしか使えなかったが、 同社製の刃型以外のあらゆるゼンマイ刃を固定で きる「エコマグα」として改良し、印刷現場を支援している。

また2018年には、クレープ紙や和紙などの凹凸のある素材に対してしっかりとインクが乗るシール用「フレキソ版」の提供を開始した。
フレキソ版特有の弾性の高い柔らかい素材の特徴を活かし、インクがかすれることなく印刷できる。
日本酒ラベルなどで多用されている和紙やクレープ紙といった凹凸のある素材に対して、色の再現性が高い印刷が可能となるため、近年オーダーが伸びている。

刃型、製版以外の領域にも積極的に挑戦

シール印刷特有の複雑なトンボ(トリムマーク)を一瞬で付与できる、DTP作業の効率化を支援する独自の製版ソフト「カスタムトンボスクリプト」を2020年に発売した。
印刷範囲や断裁ラインを示す目印である印刷用トンボのほか、版の種類や 縮小率などのさまざまなデータをマウス操作だけで瞬時に配列することができる、グラフィックデザインソフト「Adobe Illustrator(アドビ イラストレーター)」のスクリプトソフトだ。
もともとは 自社のDTP作業を簡素化するために開発されたソフトだったが、得意先である印刷会社から「うちでも使いたい」という声が多く上がり、販売を開始したとのこと。
買い切りタイプのソフトウェアの場合では、イラストレーターのバージョンアップのたびに買い直す必要があり高額なものとなってしまうが、ユーザーが導入しやすくするために低価格なサブスクリプションで提供している。
木原社長は「当社での改善だけでなく、業界全体のDTP担当者の負担が軽くなるよう努め、生産性の向上につなげていきたい」とコメントする。

業界各社が集う任意団体のトップに就任し、社会貢献に尽力

印刷会社を中心に印刷関連企業が対等な関係で集まる任意団体ヴィープスの会員である木原社長は、2021年、同団体において初の印刷会社以外からの選出となる新チェアマンに就任した。
主な団体の活動内容は、健康経営に関するセミナーや、日本印刷産業連合会の主催「グリーンプリンティング(GP)認定制度」の環境配慮基準に適合したGP認定工場を目指す勉強会など、毎月さまざまなテーマを取り上げ、講習会を開催している。
地方会員のために、新型コロナの感染拡大が落ち着いてもZoomを併用してオンライン参加できる環境も構築。
社会貢献活動に重きを置く活動を実現している。
木原社長は、「まずは自社が率先して取り組まなければ示しがつかない」との思いから、SDGs推進のためのチームを社内に立ち上げ、2022年3月にシール印刷部門では初となる製版事業者によるGP認定工場となった。

木原社長は、「もともとは印刷業界の課題や話題に興味があって、2006年に入会した業界内の任意団体でした。社会の一員としてこれからの企業がどうあるべきか、業界全体でしっかりと課題に向き合っていきたいです」と力を込める。

職人の技を絶やさぬよう、M&Aにより板橋工場の運営をスタート

2021年10月、取引先であった田中工芸社(東京・板橋区)の廃業にともない、木原社長は「このままでは、せっかくの高い技術が消失してしまう」との強い思いから、同社のビク型(トムソン型)事業を継承し、新たに板橋工場として同社の設備、従業員、ノウハウを引き継いだ。

ビク型の語源は、主に関東でドイツのビクトリア印刷機を改造して抜き加工を始めたのが由来で、関西ではアメリカのトムソン社の抜き加工機が主流だったことから、トムソン型と呼ばれている。
ビク型も同じ刃型事業とはいえ、それまで主に扱ってきたゼンマイ刃とは異なる技術やノウハウが必要であり、M&Aにより事業領域を広げたことで、これまでは協力会社へ依頼していたビク型の案件についても、自社で対応できるようになった。

ユーザーの困りごとを解決するのが仕事

現在では版を必要とせずにデータを印刷機に直接送信して印刷するオンデマンド方式も普及してきており、フナミズ刃型製版でも最小1枚からのシール・ラベル印刷が可能となっている。
また、脱炭素やSDGs対応などがトレンドとなるなか、ラベルレス商品への関心の高まりなどといったニーズの変化もでてきている。

木原社長は、「10年後、20年後、今のビジネスモデルが続いているかどうかは正直わかりません。ただ、せっかく私が引き継いだ事業ですから、また次の世代へとしっかり引き継げるよう、会社を発展させていかなければなりません。
お客様の要求は常に変わっていきますが、変化をしながらも市場は決してなくならないと思いますので、これからも質の高い刃型、製版、オンデマンド印刷、デザイン制作というサービスを通じて、印刷会社ができないことや難しいことを解決し、お客様のビジネスを支えていきたいです」と展望を語る。
「お客様の仕事を楽に、楽しくし、仕事を楽しみ、人生を楽しむ」を経営理念に掲げる同社は、常に新しい技術を取り込み、できることをアップデートしながら、業界を牽引していく考えだ。
現状維持だけでは、生き残りが厳しい世の中。ユーザーからの「こんなのがあったらいいな」から生まれる、時流を捉えた同社の次なる新たな製品・サービスが注目される。

企業概要

株式会社 フナミズ刃型製版
https://www.hagata.co.jp

■代表取締役社長:木原一裕
■所在地:埼玉県朝霞市栄町4-5-24
■創業:1980(昭和 55)年
■設立:1984(昭和 59)年
■従業員数:44 名(2022 年 3 月現在)
■事業内容:ゼンマイ刃・ビク型・フレキシブルダイなどの刃型製造事業/亜鉛版・樹脂版・フレキソ版などの製版事業/版下作成、デザインほか