ラベル新聞 10月15日号

田中工芸社の「ビク型」事業を譲受し板橋工場で運営をスタート
〝卓越した職人の技を絶やさぬために〟

㈱フナミズ刃型製版(埼玉県朝霞市栄町、木原一裕社長、☎048・465・2140)は10月1日、㈲田中工芸社のビク型事業の譲受を発表した。田中工芸社から、設備・従業員・場所を引き継ぐことになった同事業は、板橋工場(東京都板橋区東新町)で展開している。これまで刃型事業では、ゼンマイ刃や腐食刃を主戦場としてきたフナミズ刃型製版に新たなピースが加わった。同社の木原一裕社長に、事業譲受の経緯やビク型の印象を聞いた。

――まずは、事業譲受に至った経緯について教えてください
「刃型のベース板を加工するレーザーカッターの調子が悪くなったのがきっかけです。加工の協力会社に相談をしていたところ、レーザーカッターを売却したい会社がほかにあるとのことで、見学に行きました。売却を希望する会社が、ビク型事業を展開していた田中工芸社さんでした」
「詳しく話を聞いてみると、レーザーカッターのほかにも、刃型の折り曲げ機などの設備すべてを売却したいと言います。また設備の売却後には、従業員2人の働き口を探し、廃業する意向でした。このままでは、せっかくの高い技術が消失してしまうと思い、田中工芸社さんの事業を引き継ぐことに決めました」

――事業譲受の内容を詳しく
「従業員と設備が稼働する場所はそのままに、当社板橋工場として展開しています。当初は、設備だけを購入してはという提案を受けましたが、畳一畳ほどの大きさのビク型を扱う設備を納入するためには、余剰のスペースが足りませんでした」
「また同じ刃型とはいえ、当社が主に扱うゼンマイ刃とは異なる技術やノウハウが必要なため、設備があれば簡単にできるといったものでもありません。人と技術の基盤が整い、初めて設を生かし、安定した供給が実現できますので、2人の従業員も受け入れることにしました」

――ビク型について、どのような印象を持っていましたでしょうか
「A0・A1サイズで多面付けされるビク型の大きさはさることながら、紙器・パッケージや段ボールなどを抜くために、刃の高さのほか、強度が求められるものです。シール用のゼンマイ刃の高さが最大でも12㍉の一方で、全抜き加工用のビク刃は23・6㍉、ハーフカット用では23・4㍉が主流でした」
「そのような違いがある中で、刃の厚さに注目したところ、ハーフカット用のゼンマイ刃とビク刃は0・45㍉で同じ厚さであることに気付きました。田中工芸社さんが扱うビク刃は、枚葉オフセット印刷後のラベルをハーフカットする用途に特化していましたので、厚さが影響する折り曲げ加工に関しては、これまでの技術で問題ないと実感できたのです」

――ビク型を扱うようになったことで生まれた相乗効果は
「これまで、雑誌の付録シールなどでニーズの高いハーフカット用ビク型の案件は、協力会社へ依頼するしかありませんでしたが、当社においても、迅速な対応ができるようになればと期待しています」
「また当社では、ゼンマイ刃を用いて簡易な貼り箱を抜いたり、丸抜き加工のカスを溜めておける機構を搭載した『サイドポンチゼンマイ刃』を開発したりと、紙器・パッケージ製造を支援するのに興味を持っていました。ビク型を扱えるようになったことで、これらの技術をより世に送り出しやすくなると考えています」

――今後の展望についてお聞きします
「ゼンマイ刃とビク刃の共通点として、アクリルやベニヤで作られるベース板にレーザーカッターで絶妙な溝幅を設けるほか、そのベース板に合わせて刃を曲げていく細やかな技術が必要です。これらは最新の設備と合わせて、人の手による職人技が極めて重要でしょう。ゼンマイ刃とビク刃を製造する中で感じる共通点や相違点は、職人の繊細な感覚でしかわからないことです。ビクとゼンマイ、相互の経験のシナジーにより、どちらの刃型も、さらなる高品質化に努めていきます」
「また、ビク型事業を田中工芸社さんから迎え入れたメンバーだけに任せるのではなく、朝霞工場から1人出向、さらに職人の採用を進め体制を構築中です。新たな人材は、ゼンマイ刃や腐食刃の基本をマスターした後、板橋工場に加わってもらう予定です。せっかく引き継いだ事業を次の世代へも永続し、会社を発展させていく所存です」