ラベル新聞 2016年5月15日号

全員で明るい未来を迎えるために

ネオジム磁石による着脱を可能にした抜き型を考案したり、独自加工を施した自社製印刷用亜鉛版を製造したりと、開発型企業として存在感を示す㈱フナミズ刃型製版(埼玉県朝霞市栄町、木原一裕社長、☎048・465・2140)。これら商材を抱え北から南までくまなく巡る木原社長不在の社内を預かりマネジメントに臨む36歳の〝右腕〟、荒井俊介製造部部長に今回話を聞いた。

――業界歴と現在まで

「業界歴は11年です。入社後から5年前までずっと製版の部署に所属していました。現在は製造部部長という役職ですが、業務内容を端的に言うと(木原)社長の補佐と社内の潤滑油です。会社の方針を社内全体に広めたり社員の意見を吸い上げたりと、全体に目を配ってうまく回すような役回りを担っています。最近社長が社内にいる時間が少なくなっているので、不在時には社長の代理を務めるくらいの心持ちでいないといけないと思っています。もっとも、実際にできているかどうかは別ですが」

――最近の受注傾向は

「総体的に客単価は減っていますね。当社は昨年営業部を新たに発足したほか、社長も現在関東外の地域へも積極的に足を運んでいます。こうして顧客数を増やしていかなければ売り上げ向上は望めないため、そこに専心しています」

「後は、刃型も製版も即日出荷が基本。夕方前にオーダーが入り、今日の集荷に間に合わない恐れがあって『少し納期をいただけますか』という相談を『どうしても今日出荷して欲しい』と押し返されるケースも珍しくないくらい、短納期化はより顕著ですね」

――客単価の減少と短納期化、原因はどういったところだとお考えですか

「まず短納期については、ものづくりの制作フローの中で、川下の印刷に仕事が下りてくるのが期日のギリギリだからでは。色見本と違う・デザイン修正に差し替えと、フローの途中で頻繁に停滞して、結果印刷会社が一番困っているように映ります」

「次に単価の件ですが、要因をたどると大手が外注を控えはじめたような印象を受けます。これまで振られてきた仕事が減れば、必然的に発注量や回数も減ります。ほかの要因は、当社の新しいサービスをお客さまに十分に伝えきれていないことと、お客さまの生の声をヒアリングしきれていないこと。営業も入ったので、今後はしっかりと改善を図っていけそうです」

――顧客数を増やすために心がけていることは

「製造部門は自ら外へ仕事を取りにいくことはありません。一方でココはこう処理するといいですよ・そっちよりもこちらを選択した方がより効果的です、などクライアントと直に話す機会は割とあります。新規顧客との取引開始の際は特に『先日の版はどうでしたか』『不明な点やお気づきのことがあれば仰ってください』と、それっきりにならないようフォローアップを兼ねてアクセスする体制を敷いています」

――目下の「期待と不安」について

「印刷のデジタル化が徐々に進んでいます。これは、フナミズ刃型製版の中軸である版と刃型が今後縮小していくことを意味します。それにも関わらず、現時点ではいずれも売り上げが伸び続けています」

――要因は何でしょうか

「正直、現段階では営業部設立の効果は数字としてそこまで出ていないと判断します。それでも伸びているのは、当社のものづくりが評価されている証拠。究極を言えば、これを突き詰めることが最大の営業力強化につながるはずです」

「後は社長が全国に足を運び、顔とフナミズ刃型製版の名を売っているから。『○○さんからフナミズさんに相談してみたらと紹介されて』と新規受注をいただくなど、口コミ効果も大きな要因の一つです。ですから、ここへさらに営業が加わり、今まで以上のフォローできたら――と考えると、期待感は強いですよ」

――製品やサービスを通じて営業しているのですね

「続いて不安ですが、やはり表裏一体でデジタル化。この先当社が新事業を立ち上げていなければ、私も50歳を迎える前に放り出されるでしょう」

「とは言いましたが、当社は長らく印刷用データをいじっていますので、そこに対する専門知識とスキルは相当あると自負します。印刷のデジタル化に移行すれば、印刷用のデータ加工で強みを発揮できるでしょう。お客さまはあくまで、スイッチオンして運転開始するだけでよい訳です」

――これまでに印象に残った仕事はありますか

「HP Indigoのユーザー企業から受注した4万件の可変データ作成ですね。当初はIndigo側でデータが作れると聞いていましたが、どうやらできないと夕方過ぎて先方から社長に電話が入り、カチャカチャやり出しました。ちょうど帰り支度をしていた私ですが、いきさつを聞いてしまっていたので、さすがにこのまま素通りはできないと思い覚悟を決めて『手伝いましょうか』と。全員退社した後、社内のマッキントッシュを全台使用して作業を開始しました」

「当社も可変データを生成するソフトを入れて間もない時期でした。今となれば難なく行える作業ですが、当時はここまでの件数は経験がなく、納期が翌日に迫る中で必死に作業しました。4万件を台数分に分割し、さらに一気にデータを流してフリーズするのを避けるため、各機の中でさらに細切れにしてスタートを都度繰り返す。夜中3時過ぎまでやりました」

――なかなか壮絶ですね

「何とか入稿でき印刷も納期に間に合ったのも束の間、発注元から『番号が抜けている』と通告が。4万件すべてプリントアウトして、総員でチェックしました。結局抜けはなかったのですが『データに抜けはありません』とお客さまに即答できなかった、こちらに落ち度があります。そんなオチまで含め、とても印象に残る仕事でした」

――最後に今後の展望をお聞かせください

「新規事業を立ち上げ、今後のフナミズ刃型製版の柱として育てていくことです。ここまではすべて社長の発案に基づく事業ですから、次は私がどうにか、という強い思いはあります。あるいは各部署のリーダーがそれを実現してくれれば。これをやろうと可能性を見出して事業部を立ち上げ、ビジョンを共有し、軌道に乗せ、全員で明るい未来を迎えることが私の夢ですね」